
「転移性脳腫瘍」と「原発性脳腫瘍」に分類することができる脳腫瘍
人間の脳は頭蓋骨に覆われていて、さらに、その頭蓋骨の内側にある髄膜という膜にも覆われています。
「脳腫瘍」とは、この頭蓋骨の中に発生する腫瘍の総称となっており、「転移性脳腫瘍」(他の臓器で発生した癌が血液によって脳に運ばれて増殖したもの)と「原発性脳腫瘍」(脳や脳の周囲の組織から発生したもの)に分類することができます。
「原発性脳腫瘍」には悪性と良性があり、「脳腫瘍」全体では悪性と良性はほぼ半々の割合で発生しています。
「脳腫瘍」では、腫瘍細胞と正常な細胞との境界がはっきりせず、分裂速度が速く、周囲の細胞を浸潤しているものを悪性、腫瘍細胞と正常な細胞との境界がはっきりしていて、分裂速度がゆっくりしているものを良性としています。
「原発性脳腫瘍」には「神経膠腫(グリオーマ)」・「髄膜腫」・「下垂体腺腫」・「神経鞘腫」等のさまざまな種類があり、また、「脳腫瘍」全体でもさまざまな種類があるため、発生頻度や好発年齢等もそれぞれの腫瘍で異なっています。
「原発性脳腫瘍」は、脳内から脳内に転移するケースはありますが、脳にはリンパ系が存在しないため、脳から他の臓器に転移することはほとんどありません。
それとは逆に、脳は他の臓器からがんを転移されやすい臓器となっているため、「転移性脳腫瘍」は「脳腫瘍」全体の約15%を占めています。
特に乳がんや肺がんは脳に転移しやすいがんとされており、その際には、脳以外の他の臓器にもがんが発生しているケースが多いため、治療が困難で、一般的に予後は不良となっています。
日本では「原発性脳腫瘍」は、人口10万人あたりで年間で約3.6人発症しており、年間約1700人ほどの人が亡くなっているようです。
「神経膠腫(グリオーマ)」は「原発性脳腫瘍」の中で約35%を占めており、脳にできる悪性腫瘍の中では、最も発生頻度の高いものとなっており、良性と悪性のものの、どちらも存在します。
脳はグリア細胞(神経膠細胞)と脳神経細胞(ニューロン)の2つの細胞で構成されていますが、「神経膠腫」はこのグリア細胞ががん化してしまうことで発生します。
「神経膠腫」は大脳にできる腫瘍の大部分を占め、小児のケースでは脳幹や小脳に発生することもありますが、一般的に、その腫瘍を手術で全て切除することは難しいとされています。
「神経膠腫」は星細胞腫・悪性星細胞腫・膠芽腫・髄芽腫・その他に細かく分類され、それぞれにおいて悪性度や特徴も異なります。
「髄膜腫」は、脳を覆っている髄膜に発生する腫瘍です。40~50歳代において発症することが多く、女性の方が男性より2倍多く発症することから、女性ホルモンとの関係性が指摘されている腫瘍です。
ほとんどが良性なのですが、約2~10%の一部は悪性であり、数年かけて腫瘍が大きくなり、脳を圧迫し始めると、さまざまな症状があらわれるようになります。
「下垂体腺腫」は、脳内の下垂体に発生する腫瘍です。下垂体は副腎皮質刺激ホルモンや成長ホルモン等の、いろいろなホルモンを分泌しているので、「下垂体腺腫」が発生すると、ホルモンの分泌異常が起きやすくなります。ただ、そのほとんどが良性であり、30~40歳代で多く発生します。
「神経鞘腫」は、脳内の神経を取り巻く部分に発生する腫瘍です。3
5~40歳の女性に多く発生しますが、そのほとんどが良性であり、悪性のものは非常に稀となっています。
「脳腫瘍」全体の5年生存率は、平均して約75%であり、これは他のがんと比較すると良好な結果となっていますが、「脳腫瘍」は非常に種類が多く、その種類によって良性・悪性等さまざまであることから、それぞれによって5年生存率は大きく異なってきます。
良性の腫瘍の場合には、手術によって患部切除が成功すれば、5年生存率はほぼ100%となりますが、悪性脳腫瘍の場合、一部の腫瘍を除いて、そのほとんどが予後不良となっています。
したがって、歩き方や話の内容や話し方がおかしくなってきたり、嘔吐の頻度が増えてきたり、頭痛の程度が徐々に強くなったり等の少しでも「脳腫瘍」の疑いがある症状が発生した場合には、速やかに医療機関で診察を受けるようにしましょう。