抗がん剤 治療 副作用

人間の体内に入ると細胞の遺伝子核に入り込むトレチノイン

トレチノインとは、分子標的薬です。ビタミンA誘導体に分類されており、中外製薬から商品名:ベサノイドという名前で販売されています。
カプセル剤としてトレチノインは販売されていて、内服によって投与します。

トレチノインは1960年代に、スイスのロシュ社がビタミンAからスクリーニング・合成を行い、内用薬を開発しました。

ビタミンAは「レチノイド」と呼ばれており、人間の体内に入ると細胞の遺伝子核に入り込みます。

そして、入り込んだ後は、その遺伝子の発現をコントロールする効果を持つようになるため、トレチノインは、このような効果を抗がん剤に応用しました。

トレチノインの適応となっている「急性前骨髄球性白血病(APL)」という病気においては、15番染色体である「PML遺伝子」と、17番染色体である「RAR-α遺伝子」との入れ替わりが発生します。

その入れ替わりによって「PML-RAR-αキメラタンパク」が産生されているのですが、このタンパクにトレチノインが働きかけることによって、あえてAPL細胞を成長させ、自死に誘導します。
急性前骨髄球性白血病においては、初診時に全身のいたるところから出血してしまう「播種性血管内凝固症候群(DIC)」という病気を既に合併しているということが多くなっています。

そして、その合併している状況で強い抗がん剤を使用することから、DICの症状が悪化してしまい、その結果、死に至ってしまうという患者が多いということが問題となっていました。

しかし。トレチノインはビタミンA誘導体であるため、抗がん剤とは違い、細胞を破壊せずに白血病を治療することができます。
そのため、DICを悪化させることがなくなり、急性前骨髄球性白血病の治療成績を大きく向上させることに貢献しました。

トレチノインは現在、急性前骨髄球性白血病の治療時の第一選択薬とされています。

トレチノインの副作用として挙げられるものは、頭痛、中性脂肪の上昇、発熱、肌荒れ、口や唇の乾燥、肝機能の異常等、さまざまなものがあります。
そのため、トレチノインを使用した治療を開始する際には、事前に担当の医師から十分に副作用の説明を受けておく必要があります。

また、その副作用の症状が軽い場合においては、治療を優先しなければならないというケースも多くなっていますので注意が必要です。

トレチノインの副作用としてもっとも重要となっているのが「レチノイン酸症候群」です。
「レチノイン酸症候群」は、その当初はトレチノイン誘発性であると考えられていましたが、その後、三酸化二ヒ素を用いたAPML治療でも発現が認められました。

さらに、トレチノインを他の疾患の治療に使用した場合には「レチノイン酸症候群」は確認できないことが明らかになったため、悪性前骨髄球依存症によって発現すると考えられています。

このようなことから、急性前骨髄球性白血病治療時に発生する「レチノイン酸症候群」との呼称は分化症候群に変更されつつあるようです。

「レチノイン酸症候群」の症状としては、呼吸困難、発熱、間質性肺炎、胸水、低血圧、多臓器不全等のさまざまな症状が発生します。

対処薬としてはデキサメタゾンが有効であるとされており、症状が重症の場合においては、トレチノインの投与が中止されることもあります。

「レチノイン酸症候群」の原因としては、分化進行中の骨髄細胞から放出されたサイトカインによる毛細血管漏出症候群であることや、ATRAで成熟させられた骨髄細胞が肺等への浸潤能を獲得した可能性があること等、いくつかの原因の可能性が検討されましたが、はっきりとした原因は解明されていません。

その他のトレチノインの副作用では、白血球増多症や血栓症等が発生することもあります。

また、トレチノインでの治療中の血液検査の結果によっては、副作用の発現を抑えるため、イダルビシンやシタラビン等の他の抗がん剤と併用治療を行うということもあります。

ただし、DICを合併している患者においては、DICの症状が他の抗がん剤との併用によって悪化してしまうというケースもあるため、併用を実施する場合は慎重な経過観察を行うことが重要となります。

また、トレチノインには催奇形性があるということが、内用薬の開発過程の臨床試験におけるラット実験において確認されています。

そのため、トレチノインの投与中や投与後のしばらくは、妊娠につながる性行為は避けるようにしましょう。

【まとめ】分子標的薬一覧

リツキシマブ(リツキサン)
>>世界でベストセラーの抗がん剤

トラスツズマブ(ハーセプチン)
>>HER2蛋白に特異的に結合する事で抗腫瘍効果を発揮

タミバロテン(アムノレイク)
>>耐性急性前骨髄球性白血病に用いられる経口剤

ダサチニブ(スプリセル)
>>複数の細胞増殖に関係する酵素の働きを阻害する

トレチノイン(ベサノイド)
>>人間の体内に入ると細胞の遺伝子核に入り込む

セツキシマブ(アービタックス)
>>転移性大腸がん、EGFRの発現を伴わない頭頸部がんの治療

ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ)
>>抗体薬物複合体の1つで、主に急性骨髄性白血病の治療に使用

ゲフィチニブ(イレッサ)
>>手術不能となってしまった非小細胞肺がんに対する治療薬

イブリツモマブチウキセタン(ゼヴァリン)
>>骨髄増殖性疾患等に使われる分子標的薬

ソラフェニブ(ネクサバール)
>>腎がん・肝細胞がんの治療に用いられる分子標的薬

エルロチニブ(タルセバ)
>>膵臓がんもしくは、切除不能又は再発した非小細胞肺がんに用いる分子標的薬

ボルテゾミブ(ベルケイド)
>>形質細胞性骨髄腫や多発性骨髄腫の治療に使用される分子標的薬

イマチニブ(グリベック)
>>Bcr-Ablを標的とした分子標的治療薬

エベロリムス(アフィニトール)
>>免疫抑制剤としての使用及び、腎細胞がん治療薬としても有用な分子標的薬

ラパチニブ(タイケルブ)
>>手術不能乳がんまたは再発乳がんに対し使用される分子標的薬




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