日本において、癌の罹患率は高齢化とともに上昇を続けています。
そのため、現在では、日本人の2人に1人が癌を発症し、3人に1人が癌で亡くなるといわれています。
このような状況の中で、癌の中でも罹患率が高くなっているのが胃癌です。
胃癌の罹患数は、日本においては大腸癌に次いで、2番目に多くなっています。
このような胃癌を発症する原因として、ピロリ菌が挙げられます。
最近の研究から、ピロリ菌が日本人の胃癌のほとんどである99%に関与していることが明らかとなってきました。
ピロリ菌は胃の粘膜に生息している細菌であり、口から感染することから一昔前の不衛生な環境下では、ほとんどの人がピロリ菌の保菌者でした。
しかし、現在では衛生状態が改善しているため、胃癌を発症するピーク年齢である40代のピロリ菌の感染率が約20~25%にまで下がっているとのことです。
ピロリ菌に感染すると、胃粘膜が炎症を起こします。
その後、吐き気、胃の痛み、不快感を伴う慢性胃炎や、萎縮性胃炎という胃粘膜の組織が消えてしまう胃炎へと進行していってしまいますが、この萎縮性胃炎は「前がん状態」と呼ばれています。
つまり、萎縮性胃炎を発生している状態は、胃癌の発症リスクが非常に高い状態といえるのです。
早期胃癌で内視鏡手術を受けた2825人の患者のピロリ菌除菌の有無と、術後3年目の身体状況を調査しました。
北海道大学大学院医学研究科の浅香正博教授らはピロリ菌と胃癌の関係性を調べる全国調査を行い、2003年9月26日に名古屋で開かれた日本癌学会総会において、その調査結果を発表しました。
浅香教授らの研究チームは全国26施設の協力を得て、早期胃癌で内視鏡手術を受けた2825人の患者のピロリ菌除菌の有無と、術後3年目の身体状況を調査しました。
その調査結果では、ピロリ菌の除菌を行わなかった2469人のうち5.2%にあたる129人が胃癌を再発し、その一方で、ピロリ菌の除菌を行った356人のうち2.2%にあたる8人が胃癌を再発するという結果が出ました。
したがって、ピロリ菌の除菌を行った人の胃癌発生率は、ピロリ菌の除菌を行わなかった人の42.3%に抑えられるということがわかったのです。
このことより、ピロリ菌の除菌は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の予防だけではなく、胃癌の予防にも効果があるということが裏付けられました。
ピロリ菌の保菌の有無については、内視鏡を使用した検査である迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法、そして内視鏡を使用しない検査である抗体測定、尿素呼気試験、便中抗原測定の検査方法で調べることができます。
薬で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を治療しても、再発を繰り返してしまうという場合は、ピロリ菌の保菌が疑われますので、ピロリ菌の検査を受けることをおすすめします。
これらの検査により、ピロリ菌の保菌が認められた場合には、抗菌材などを服用する除菌療法が行われます。こ
のピロリ菌の除菌療法を受けることによって、新しい胃癌を発症する確率を低下させることができます。
また、家族に胃癌の人がいる、子供時代に井戸水を飲んでいた、胃潰瘍、胃炎、十二指腸潰瘍を経験している、いつも胃の調子が悪い、というようなことに心当たりがある方はピロリ菌の保菌が疑われますので、一度ピロリ菌の検査を受けてみることをおすすめします。