造血幹細胞移植療法とは?効果や効能は?【癌の治療法】
血液疾患の患者に造血幹細胞を移植して治療する方法
血液中の細胞には全身に酸素を運ぶ赤血球、体の中に侵入した病原体を攻撃・除去する白血球や出血を止める血小板があり、命や健康を維持する重要な働きをしています。
これらの細胞は骨の中にある骨髄という所で盛んに増殖している造血幹細胞からそれぞれの細胞に変化(分化)して出来ます。
造血幹細胞移植療法は血液中の正常な細胞の数が減少することや働きが低下することで起こる血液疾患の患者に造血幹細胞を移植して治療する方法です。
外から侵入した病原体を自分自身の細胞と見分ける免疫システムが人には備わっており、細胞の表面には自分の細胞を見分ける目印であるHLA抗原があります。
そのHLA抗原が人によって違うためHLA抗原が異なる他人の細胞や組織を移植すると自分とは異なる外部から侵入した異物と判断し免疫系が攻撃をします。
そのため臓器移植と同様に造血幹細胞移植においてもHLA抗原が同じ自分の幹細胞(自家移植)や、血縁者あるいは非血縁者でHLA抗原が似ている幹細胞を移植する必要があります。
造血幹細胞移植療法の効果・効能
造血幹細胞移植療法は、慢性骨髄性白血病、成人急性骨髄性白血病、成人急性リンパ球性白血病、小児急性骨髄性白血病、成人骨髄異形成症候群、小児骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、成人再生不良性貧血、小児再生不良性貧血患者の治療に効果があります。
白血病の病期は白血病細胞が増えても症状がほとんど出ていない治療前の「第1慢性期」から出てきた症状が治療によって治まっている「第2慢性期」、白血病細胞が血液中に十分に増えて発熱や貧血になった「移行期」、そして急転期(高熱、出血などの急性白血病の症状)へと病気が進みます。
慢性骨髄性白血病への効果について
以前は造血幹細胞移植療法が慢性骨髄性白血病の根治療法として絶対適用になっていましたが、インターフェロンやイマチニブという薬に治療効果があることが分かり、これらの薬の使用も考えながら造血幹細胞移植療法の適用が判断されてきています。
成人急性骨髄性白血病への効果について
抗がん剤による化学療法と比較して生存期間や生活の質が向上する場合があり、そのような患者に積極的に適用されます。
成人急性リンパ球性白血病への効果について
第1慢性期は化学療法と同等の効果。第2慢性期で化学療法による長期生存は稀であるのに対して同種移植で生存期間の延長効果があります。
小児急性骨髄性白血病への効果について
第2慢性期の生存率を改善します。
成人骨髄異形成症候群への効果について
進行している成人骨髄異形成症候群では化学療法の効果は無く移植による治癒や生存率の延長が期待できます。
小児骨髄異形成症候群への効果について
稀な病気ですが移植により5年生存率と10年生存率を改善する報告があります。
悪性リンパ腫への効果について
化学療法による治療効果が高い一方で、造血幹細胞移植療法は試験的に試みられていますが治療法としては確立していません。
成人再生不良性貧血への効果について
治療の第1選択として有効性が確認されていましたが、免疫抑制療法など他の治療法の進歩により現在では必ずしも第1選択肢とは考えられていません。
小児再生不良性貧血への効果について
優れた治療効果から絶対適用と考えられていましたが、免疫抑制療法の治療成績が飛躍的に向上したため移植の絶対適用が再考されています。
造血幹細胞移植療法はこんな時に使用(適用)されます
造血幹細胞移植療法を積極的に適用するべきかどうかは年齢、病期、再発リスク、薬剤反応性などで判断されます。
病気ごとの移植適用の年齢制限と積極的に移植を勧める場合を下表にまとめています。
「同種移植」は人の細胞や組織を人に移植することを言います。
病気 | 適用年齢 | 積極的に移植を勧める場合 |
---|---|---|
慢性骨髄性白血病 | 上限なし、50歳以上は感染症の有無などを総合判断 | 第2慢性期と移行期に血縁者と非血縁者から移植 |
成人急性骨髄性白血病 | 16歳以上、同種移植は50歳まで、自家移植は60歳まで | 高リスクの第1慢性期と第2慢性期でHLA抗原が適合した兄弟からの移植 |
成人急性リンパ球性白血病 | 20歳以上、同種移植は50歳まで、自家移植は65歳まで | 第2慢性期の同種移植 |
小児急性骨髄性白血病 | 0~18歳まで年齢制限なし | 高リスクの第1慢性期と早期再発した第2慢性期のHLA適合姉妹兄弟からの移植 |
成人骨髄異形成症候群 | 上限なし、50歳以上は感染症の有無などを総合判断 | 高リスク患者へのHLA適合姉妹兄弟からの移植 |
小児骨髄異形成症候群 | 16歳未満の症例報告が主で特に制限はありません | (稀な病気のため特に積極的に勧める根拠が少ない) |
悪性リンパ腫 | 自家移植は65歳まで、同種移植は55歳までが推奨 | (治療法として確立していないため積極的に進める根拠がありません) |
成人再生不良性貧血 | 制限なし | 免疫抑制療法が効かない患者や重篤な40歳以下の初回治療 |
小児再生不良性貧血 | 18歳未満 | 重症患者へのHLA適合姉妹兄弟からの移植 |
造血幹細胞移植療法の副作用
急性GVHD(移植片対宿主病)
同種造血幹細胞移植療法の初期における発疹、黄疸、下痢を特徴とする症状で、免疫拒絶反応による組織に移動した移植幹細胞への攻撃が原因です。
予防療法として免疫抑制療法があり、治療にはステロイドの投与が一般的です。
サイトメガロウイルス感染
移植3~12週目で好発するサイトメガロウイルスの感染です。
症状は全身に現れ、発熱(38度以上)、関節痛、筋肉痛、悪心・嘔吐・腹痛・下痢・下血、呼吸困難などがあります。
移植する幹細胞のウイルス除去や抗ウイルス薬を投与して予防し、治療にはステロイドが用いられます。
造血幹細胞移植療法の注意点・危険因子
慢性骨髄性白血病
第1慢性期から第2慢性期、移行期、急転期へと病気が進むにしたがって治療成績は悪化します。また20歳以降になると年齢とともに治療成績は低下します。
成人急性骨髄性白血病
染色体異常が起こる場合は再発率が高く生存率を低下させます。
成人急性リンパ球性白血病
第1慢性期の治療で症状が残っていた場合に再発の危険性が高くなります。
小児急性骨髄性白血病
化学療法の治療成績が向上しており移植の適用について慎重な判断が必要です。
成人骨髄異形成症候群
移植直前に骨髄芽球が多い場合は再発リスクが高いです。
小児骨髄異形成症候群
稀な病気で危険因子に関する報告が少ない状況です。
悪性リンパ腫
治療法として確立していないため危険因子に関する報告がありません。
成人再生不良性貧血
発がんや慢性の移植拒絶反応の危険があります。
小児再生不良性貧血
HLA適合血縁者からの移植に比べて非血縁者からの移植の治療成績は劣ります。
まとめ
今回の内容は、「造血幹細胞移植の適用ガイドライン」、「造血細胞移植ガイドライン ‐GVHDの診断と治療に関するガイドライン‐」、「造血細胞移植ガイドライン‐サイトメガロウイルス感染症‐」を参考にしました。
下表にまとめています。
治療名 | 造血幹細胞移植 |
---|---|
効能・効果 | 慢性骨髄性白血病、成人急性骨髄性白血病、成人急性リンパ球性白血病、小児急性骨髄性白血病、成人骨髄異形成症候群、小児骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、成人再生不良性貧血、小児再生不良性貧血の治療 |
副作用 | 急性GVHD、サイトメガロウイルス感染 |